[ 現代語訳 ]
春が過ぎて夏が来たらしい。(夏になると)白色の服を干すという天の香具山(にそれが見えるから)。
[ 品詞分解 ]
春【名詞】 過ぎ/て【ガ行上二段活用動詞「過ぐ」連用形+接続助詞】 夏【名詞】 来/に/け/らし【カ行変格活用動詞「来」連用形+完了の助動詞「ぬ」連用形+過去の助動詞「けり」連用形(「る」省略)+推定の助動詞「らし」終止形】 白妙【名詞】 の【格助詞】 衣【名詞】 干す/てふ【サ行四段活用動詞「干す」連体形+格助詞+ハ行四段活用動詞「いふ」連体形(「干すといふ」の略)】 天の香具山【名詞】
[ 文法 ]
・「衣干すてふ」は「衣干すといふ」が変化したもの。
・二区切れ。
・最後は「天の香具山」という名詞で終わる体言止め。
[ 読み人 ]
持統天皇は7世紀に在位した天皇。女性である。百人一首第一句の「秋の田の…」を詠んだ天智天皇はお父さん。大化元年(西暦645年)生まれ。つまり大化の改新の年に生まれ、大宝2年(西暦703年)に崩御。在位中、今で言うところの法律「大宝律令」を作らせたことで有名。また、中国の都の作りを本格的に取り入れた日本初といわれる都城、藤原京への遷都(都を移すこと)が実現したときの天皇でもある。藤原京と天の香具山との距離は目と鼻の先であるから、持統天皇も都から毎日天の香具山を眺めていたのかも知れない。
[ 決まり字 ]
3字
[ 解説 ]
元々は万葉集に「春過ぎて 夏来るらし 白栲の 衣ほしたり 天の香具山」として伝わっている歌の改作である。大枠は同じだが細部が異なっている。例えば「衣ほしたり」と「衣ほすてふ」の違いについては、前者は「衣を干している」後者は「衣を干すという」と訳せる。前者は作者が直接見て「衣が干されている」様子を歌っているのに対し、後者では誰かから聞いた「伝聞」の形を取っている。つまり、元々は作者が直接景色を見て夏が来たことに気づいた句だったのを、誰かから伝え聞いて詠んだ句に改作したのである。
なぜそんなことをしたのかは藤原定家さんにでも聞いてみないとわからないが、一説にそう言う句が当時の流行だったからと言う説がある。平安時代以降は、それ以前に好まれた直感的な歌は好まれなくなっていったようだ。
いずれにしても、初夏の緑に囲まれて、真っ白な衣が風にひらめく景色を想像するに、景色の中の色の対比が美しい歌である。
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