このシリーズでは百人一首を順に解説していきます。
ゆくゆくは百首全ての解説を目指します。
[ 番号 ]
第十五句
[ 歌 ]
君がため 春の野に出でて 若菜摘む 我が衣手に 雪は降りつつ
[ かな ]
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
[ よみ ]
きみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ
[ 現代語訳 ]
あなたのために 春の野原に出て 若菜を摘む 私の袖に 雪は降ることよ
[ 品詞分解 ]
君【名詞】 が【格助詞】 ため【名詞】 春【名詞】 の【格助詞】 野【名詞】 に【格助詞】 出で/て【ダ行下二段活用動詞「出づ」連用形+接続助詞】 若菜【名詞】 摘む【マ行四段活用動詞「摘む」終止形】 我【名詞】 が【格助詞】 衣手【名詞】 に【格助詞】 雪【名詞】 は【係助詞】 降り/つつ【ラ行四段活用動詞「降る」連用形+接続助詞】
[ 文法 ]
・「降りつつ」の「つつ」は「~し続けている」という物事が継続している状態を表す接続助詞だが、和歌の最後に用いられる場合は、作者がその場面にしみじみと感じ入っている様子(余韻、余情)を表し、「~し続けているなあ」と「~し続けていることよ」などと訳す。
[ 読み人 ]
光孝天皇(こうこうてんのう)
平安時代前期の天皇。仁和の帝、小松の帝とも呼ばれた。55歳という当時としては高齢で即位し、その後わずか3年ほどで崩御(天皇などがお亡くなりになること)されている。即位までの生活を引き継ぎ、即位してからも質素な生活をしていたようだ。政治的な判断は全て藤原家に任せていたという。関白政治の始まりである。
[ 決まり字 ]
6字
[ 解説 ]
作者が摘んでいる「若菜」とは、当時、正月7日に食べると健康でいられると言われていた芹などのことで、現在の七草がゆに通じるものである。春の訪れが感じられる若菜の緑に、冬の名残の白い雪の対比が美しく感じられる歌である。作者が誰のために若菜を摘んでいたのかは残念ながら分からない。しかし、雪の降るまだ寒い中、自ら外へ出て摘んだのであるから、とても大切な人への贈り物だったに違いない。
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