[ 歌 ]
第九句 花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせし間に
小野小町(おののこまち)
[ 現代語訳 ]
桜の色はすっかり色あせてしまったなぁ。長雨が降っている間に。そして、同じように、私の美しさもすっかり衰えてしまったなぁ。空しく物思いにふけって過ごしている間に。
[ 品詞分解 ]
花【名詞】 の【格助詞】 色【名詞】 は【係助詞】 うつり/に/けり/な【ラ行四段活用動詞「うつる」連用形+完了の助動詞「ぬ」連用形+過去の助動詞「けり」終止形+終助詞】 いたづらに【ナリ活用形容動詞「いたづらなり」連用形】 我【名詞】 が【格助詞】 身【名詞】 世【名詞】 に【格助詞】 ふる【ハ行下二段活用動詞「ふ」連体形】 ながめ【名詞】 せ/し【サ行変格活用動詞「す」未然形+過去の助動詞「き」連体形】 間【名詞】 に【格助詞】
[ 文法 ]
・二句切れ
・「ふる」は「(雨が)降る」と「(年月を)経る」との掛詞
・「ながめ」は「眺め」と「長雨」との掛詞
[ 読み人 ]
六歌仙や三十六歌仙に数えられる歌人であり、歌の才能は相当なものであったようだ。
同時に絶世の美人であったという。一説によれば現在の秋田県が出生地とされ、秋田県の農業試験場で開発されたお米「あきたこまち」や東京と秋田を結ぶ新幹線の名称「こまち号」は、彼女の名前から取られている。彼女にまつわる伝説も多いが、生年や没年も判然とせず、出生地についてもそれを特定出来るようなものはない。そもそも本当に美人であったかどうかすら当時の人のみぞ知るところである。
[ 決まり字 ]
3字
[ 解説 ]
歌の中には「花」としか書かれていないのに訳文では「桜の花」となっており、どこから桜だと分かったのかと疑問に思うかたもいらっしゃるかも知れないが、古文の中で「花」と言えばほぼ確実に桜の花のことであるので覚えておいて損はない。この歌の特徴は、掛詞を用いて一つの歌の中に二つの意味を同時に存在させているところにある。一つは桜の花が長雨によって色あせてしまったことを残念に思う気持ち、そして、もう一つが自分自身が年を取って昔の美貌を失ってしまったことを嘆く気持ち、この二つである。歌と言うものは、三十一文字(みそひともじ)の中に全てを詰め込まねばならない。その制約もあって、少ない文字数で多くを表現するために、しばしば一つのところに二つの意味を持たせると言ったことが行われるのである。
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