[ かな ]
ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みずくくるとは
[ よみ ]
ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくくるとは
[ 現代語訳 ]
竜田川を(散って流れる紅葉の)とても鮮やかな赤色でくくり染めにするとは、はるか遠い昔の神様の時代にさえも聞いたことがない。
[ 品詞分解 ]
ちはやぶる【バ行上二段活用動詞「ちはやぶ」連体形】 神代【名詞】 も【係助詞】 聞か/ず【カ行四段活用動詞「聞く」未然形+打消の助動詞「ず」終止形】 竜田川【名詞】 からくれなゐ【名詞】 に【格助詞】 水【名詞】 くくる/と【ラ行四段活用動詞「くくる」終止形+格助詞】 は【係助詞】
[ 文法 ]
・「ちはやぶる」は「神」に係る枕詞。
・二句切れ。
・倒置法。神様の時代でも聞いたことがないという驚きを強調している。
[ 読み人 ]
在原業平朝臣(ありわらのなりひらあそん)
平安時代初期に活躍した歌人で六歌仙のひとり。百人一首にも当然歌が取り上げられているが、伊勢物語の主人公として古来から有名。朝臣(あそん)とは、天武天皇が新たに制定した8つの姓のうちのひとつで、上から2番目の位である。
百人一首にあるこの歌以外にも有名な歌は多い。「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」という歌は「世の中に全くさくらがなければ春の心は穏やかだっただろうに(実際にはさくらが散ってしまうのを気に掛けてしまうので春の心は穏やかではない)」というさくらに対する人の愛着を見事に表現した歌だが、反実仮想の助動詞(「AましかばBまし」=「AであったならBであっただろうに、実際はAではないのでBである」)の好例としても良く出てくる。
[ 決まり字 ]
2字
[ 解説 ]
神様の時代とはつまり神武天皇より以前の時代、日本神話の世界である。日本神話によれば、神々が生まれ、日本が生まれ…と色々と不思議なことがおこっていたのが神代であるが、その神代にすら竜田川が紅葉で赤く染まるのは聞いたことがないと、この歌は歌っているのだ。この景色を見たときの驚きが伝わってくるような歌であるが、実際の所はその景色が描かれた屏風を見て詠んだ歌と古今集には伝わっている。
竜田川とは奈良県を流れる川で、現在でも紅葉の名所である。「くくる」とは「括(くく)り染めにする」と言う意味で、くくり染めとは布に色をつける際の技法の一つで、布の一部分に糸を巻いて染料に浸すことで、糸で隠された部分が白く残り、そこが模様となる染め方のこと。
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