[ かな ]
たちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかえりこむ
[ よみ ]
たちわかれ いなばのやまの みねにおうる まつとしきかば いまかえりこん
[ 現代語訳 ]
(私は今からあなたと)お別れして因幡の国(鳥取県)へ旅立つが、その因幡の国にある因幡山の峰に生えている松のように(あなたが)待っていると聞いたなら、すぐにでも帰って来よう
[ 品詞分解 ]
立ち別れ【ラ行下二段活用動詞「立ち別る」連用形】 因幡の山【名詞】 の【格助詞】 峰【名詞】 に【格助詞】 生ふる【ハ行上二段活用動詞「生ふ」連体形】 まつ/と【タ行四段活用動詞「まつ」終止形+格助詞】 し【副助詞】 聞か/ば【カ行四段活用動詞「聞く」未然形+接続助詞】 今【名詞】 帰り来/む【カ行変格活用動詞「帰り来」未然形+意志・推量の助動詞「む」終止形】
[ 文法 ]
・「因幡の山の峰に生ふる」は「まつ」を導くための序詞
・「因幡の山」の「いなば」は国名の「因幡」と「行くならば」と言う意味の「往なば」の掛詞
・「まつ」は「松」と「待つ」の掛詞
・「まつとし聞かば」の「し」は無くても意味は通じるが、語呂を良くするためと意味を強くするために用いられている。品詞は副助詞。
[ 読み人 ]
中納言行平(ちゅうなごんゆきひら)
平安時代の歌人。「中納言」は役職名。本名は在原行平(ありわらのゆきひら)という。六歌仙として有名な在原業平は弟にあたる。この歌にあるように因幡の国へ仕事で赴任していた。今で言う県知事のような役職である。因幡の国へは2年ほど赴いていたらしい。
[ 決まり字 ]
2字
[ 解説 ]
この歌が作られた背景は伝わっていないが、作者が京都から鳥取へと赴任した際に詠んだものと言われている。今日に残して行く人々に対し、別れの思いが歌われている。当時は別れの際にこのような歌を詠むことが一般的だったようだ。今はしばしの別れであるけれども、待っていてくれる人がいれば私は帰ってきますという思いの先にいたのは友達だったのか、家族だったのか、あるいは恋人だったのか、いずれにしても、掛詞を巧みに使い秀麗な歌に仕上げている。
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